ささもと こどもクリニック News Letter vol.11 no.11 (2012.11.15)
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【Hibによる最も恐ろしい病気:喉頭蓋炎】
『喉頭蓋』は聞きなれない言葉だと思います。喉の奥、気管の入り口の部分にあって、物を食べて飲み込んだ時に、食べ物が気管に入らないようにふたをする役割があります。その喉頭蓋にHibが感染することがあります。喉頭蓋が感染により炎症をおこし腫れると、気管の入り口はもともと細いので、すぐ蓋をされた状態になり、肺に空気は入らなくなります。つまり窒息です。喉頭蓋炎は発症して早く診断がつけば、気管に管をいれて人工呼吸管理にすることにより助かります（でも気管の入口が腫れているので、管を入れるのも難しく、手間取っているとその間に窒息します。何しろ通常の診察で行われる舌圧子という喉をみるへらをつかうだけでも窒息してしまうくらいです）。
でも早く診断をつけるのが難しいのです。それは重篤な呼吸障害になる病気なのに、最初の症状は発熱だけで咳ひとつないからです。でもその後急速に呼吸器症状が現れ、数時間で窒息してしまうことも珍しくないのです。つまり最初は発熱だけですので受診されても、喉頭蓋炎という診断には至らないと思われます。
実は当院でも数年前（まだ日本ではHibワクチンが行われていなかった時代）にこの疾患を経験しています。午前中発熱だけでいらしたのですが、その時は悪い所見もなく、もちろん舌圧子を使って喉を診察しても何も変わりはありませんでした。投薬で帰宅されましたが、午後になって苦しそうになった、とお母様がもう一度連れてこられました。呼吸困難のサインがあり、私もその時にはじめて喉頭蓋炎だと思いました。大至急病院に搬送し、人工呼吸器を装着、抗生物質の十分な投与で救命できました。振り返ると、もし午後の再受診がなかったら、もしくは最初の来院が夕方で、夜お母さんが‘もう少し様子をみよう’と考えてしまっていたら、などと考えると今でもぞっとします。
Hibは細菌性髄膜炎の原因でもあり、もちろんそれも死亡率の高い病気ですが、あっという間に生命の危険にさらされるという意味では、喉頭蓋炎は最も恐ろしいと思います。私が、生後２か月になったら何より先にHibワクチンを受けて下さいとお願いしているのはそのためです。欧米ではHibワクチンの普及により喉頭蓋炎は激減していますので、すでにHibワクチンを受けた方は心配ありません。５歳未満のお子さんで、まだなさっていない方、受けるつもりがない方は、このような危険があるということをよく考えていただきたいと思います。
【アレルギーひとくちメモ】
多形滲出性紅斑。手や足の甲、腕や脚に左右対称性に、やや盛り上がった紅斑が多数できます。大きい紅斑はだいたい中央部は灰色がかることが多いです。そして次々に新しい紅斑ができ、紅斑同士がくっつくことも多いです。痒みを伴うこともあります。蕁麻疹のようにも見えるので、食べ物が原因では、と考えるお母さんも多いようですが、多形滲出性紅斑の原因ははっきりとは分かっていません。ヘルペスやマイコプラズマなどの感染による二次的なものの他に、薬物、食物、さらにはホルモン異常だったということもあるようです。
一般には２−３週間で自然によくなることが多いようですが、抗アレルギー薬でかゆみを抑えたり、ステロイド外用薬をぬったりする対症療法で様子をみることが一般的です。重症の場合はステロイドの内服を行います。多形滲出性紅斑の重症型として、スチーブンス・ジョンソン症候群と呼ばれるものがあります。高熱がでて、皮膚だけでなく口の中、眼、外陰部などにも水泡やびらんが生じます。この場合は入院が必要です。
